ホムンクルスの一生

 俺はフラスコの中の小人だ。錬金術師を自称する医学生の風変わりな実験によって創られたホムンクルスだ。

 医学生――こいつはいつも、夜になると部屋の中を忙しげに歩き回りながら思索に耽る。そしてふと立ち止まっては、その突飛な発想を俺に向かって語りかけ、その鋭い着想に驚かされるのが俺の日課となっていた。

 こいつが創り上げたものの中でも、最も独創的ですばらしい発明は《検閲機構の除却》だろう。

 人間とは本来、宇宙のすべてのところで生じることを知覚することができるが、これでは無益で無関係な膨大な情報量に人間が押しつぶされ混乱が生じてしまう。だが、人間の脳は日常生活に必要な情報だけを《検閲機構》という脳の除去作用によって情報を特別に選び取って残すことができ、生きていくうえで必要な僅かな量の情報だけを知覚することができる。これが脳に備わってる機能――《検閲機構》だ。

 そしてこいつのすごいところは《検閲機構》を持たないホムンクルスを創り上げてしまったということだ。

 つまり俺はこいつのおかげで、このフラスコの中から出なくとも、宇宙のすべてのところで生じることを知覚することができるというわけだ。